チェンジ−趣味家向けの優れた方法から、消費者向けの安全な方法へ

まえがき
これまでの洋ランの育て方の本などは、生産者の栽培法が基本になっています。温室で、素焼き鉢かプラスチックポットに、ミズゴケかバークで植え、遮光ネットを張り、ほぼ毎日水やりし、ほぼ毎月殺菌剤や殺虫剤を散布し、夏は通風・冬は暖房し、1-2年ごとに小さめの鉢に植え替え、などです。生産者(低コスト、早い開花と出荷、害虫や病気は絶滅)や趣味家(展覧会での入賞を目標)は、他との競争があるので、手間を惜しまず、また長所がある方法は危険があっても取り入れます。
しかし、一般の消費者には、温室も競争もありません。むしろ、これまで考えられてこなかった「安全で手間のかからない方法」が望まれるのではないでしょうか。

1 初めに

これまで、洋ランの栽培法とされてきた方法は、初心者には危険なことが多いです。また、温室での栽培で行われてきたことが元になっているため、家庭で普通の屋外と室内での栽培には合っていないこともあります。そこで、ここでは、これらに合うように、従来の常識を見直していきたいと思います。

2 趣味家向けの優れた・危険のある方法から、消費者向けの安全で手間がかからず確実に咲く育て方へ

洋ランのイメージというと大抵枯れるか花が咲かないかのどちらかです。本などで勧められている方法の通りにしていてもうまくいきません。

結論を言うと、これまでの方法は、生産者が苗を育てて開花株にして売るための育て方を、家庭の育て方でも基本にしていることに理由があるのです。
趣味家の多くは、洋ランクラブに入って先輩のアドバイスを参考にしながら品評会での入賞を目指しています。手間を惜しまず、最良の方法を研究し、危険も冒して、競争に参加します。
しかし、素焼き鉢やミズゴケに代表されるように、この方法は、短期間で植え替えをしないと根腐れしたり、毎日に近く一鉢づつ見回りながら水やりを加減したり、頻繁に農薬を掛けたりしなければなりません。温室ばかりでなく予備の鉢や植え込み材料や農薬を用意して保管しなければなりません。
これまでの趣味の洋ラン作りの本の作者には、「安全な育て方」という考え方はなかったようです。大半の人が枯れたり咲かなかったりしたのはそのためと言えるでしょう。また、種類ごと月ごとに色々な世話が必要なのは、ラン本位で「手間をかけない」という考え方もなかったためと思われます。花の咲かせ方も早く咲かせることが目的で、「確実に咲かせる」とは対極的です。

3 これまでの方法は消費者には危険で手間がかかりすぎます

3.1 消費者には危険
これまでの方法では、大半の人には、枯れてしまうか、咲かないかのどちらかでした。それは、生産者や、趣味家にはできても、一般の人にはできないことが要求されていたからではないでしょうか。
根腐れの原因1−鉢の表面を見て水やり
根腐れの最大の原因は、鉢の中が乾かないうちに水やりするからです。これまでの方法は、「鉢の表面が乾くのを見てから、季節や鉢により異なる適当な日数が経ってから水やりする」わけですが、中の乾きはまちまちなので、長い間には必ず過湿が起きてしまい、根腐れしてしまう危険な方法です。
根腐れの原因2−ミズゴケやバークは短期間で劣化します
現在主に使われているミズゴケ、バークは、それぞれ1,2年で劣化し、植え替えをしないと根腐れが起きてしまいます。鉢や水やりや植え方で根腐れを減らせても、いつまた根腐れになるか分かりません
枯れや咲かない原因−小さい鉢
これまで、洋ランは小さめの鉢に植えるように言われてきました。実際、売られているミニ洋ランの多くは径6cmや7.5cmの鉢に植えられています。このような鉢、特に素焼き鉢では、乾きが早かったり、鉢内が暑くなったり冷えすぎたりで、水切れしたり、根を初めとして傷みが早く、枯れることが多いのです。
また、枯れないまでも、生育不良で新芽が大きくならず咲かないことが多いのです。
3.2 手間がかかりすぎる
生産者はそれが仕事なので手間がかかることをいといません。また洋ランを優先した生活をしている趣味家の人も同様です。しかし、洋ランを気軽に楽しみたい消費者にとっては負担です。少し生長が良くなると言って、薦められている方法をしなければならないと考える必要はないのです。
毎日に近い水やり
夏にはシンビジウムは毎日、バンダは朝夕2回水やりなどと言われていますが、普通の人にはできないことで、旅行に行くこともできません。他の季節も1日おきとか週2回で、それも一鉢づつ見ながらでは手がかかりすぎます。
遮光は種類や月により10%刻みでネットを変える
これも本の通りやろうとしても、煩雑で不可能でしょう
毎月、殺虫剤と殺菌剤を散布
これは手間がかかる上に、人体と環境に有害で、薬品の保管、使い残りの処分など頭が痛い問題です。
十日ごとの液肥
本を見たりすると液肥をやらなくてはならないように思わされますが、これも大変です。
春と秋の出し入れは、低温種、中温種、高温種に分けて最低気温に応じて、冬の置き場所も分けて
これも教科書通りにやるのは中々大変です。
植え替えはミズゴケ植えは毎年、バーク植えは2年以内に、春に芽が出だしたら、しかし種類によっては秋に
一方植え替えした翌年は咲かないとも言われ、悩みの種で、植え替えが遅れると根腐れし、咲かなくなります。
吊り鉢
ランは樹上に着生していることが多いので、吊り鉢は理にかなっているように思われます。しかし、金具を作って一鉢ずつ吊り下げたり、水やりの際に一々降ろしたり(そのまま水やりもできますが)、風が強いと降ろしたりなどは手間がかかり、また、乾きが早くなって水やりを頻繁にしなければならなくなります。

4 チェンジ−どんどん安全で、簡単になり、花は確実に咲く

これまで言われている「良いこと」をやろうとすると「ガラパゴス」になります。思い立った処から変えてみて、身軽にしていきましょう。
根腐れ防止で、水やりを簡単に−容器を透明容器に変える
容器を鉢から、コチョウランで使われている透明ポリエチレンポットなど、中の見えるものに変えましょう
中が湿っていると分かるので水やりを遅らせることができ、根腐れが減ります。水やりは中がある程度乾くのを確かめてからやるので分かりやすく簡単になり、根腐れの不安を抱えないで気楽になります。
透明ポリエチレンポットは安くて、場所を取らず、ゴミとしての処分も簡単で、再使用しないので洗う手間もかかりません
透明ポリエチレンポットは、園芸店などでは売っていませんが、洋ラン園にはあることが多く、ネットからの通信販売で取り寄せることもできます。鉢の1/10位の値段で、重ねられるため場所を取らず、使い終わって植え替えしたら、かさばらないためゴミとして捨てることができます。再使用しないで済むので洗う手間がなく病菌の恐れもありません。
根腐れ防止の、発泡スチロール底敷き、中芯入り、横穴開け植え
根腐れの原因となる植え込み材料の湿りの持続は、鉢底に溜まったわずかの水がいつまでも植えの植え込み材料に滲みだしたり、鉢の中心の根元直下が乾きにくかったりが原因です。これまでの方法では鉢底にごろ土などを敷きますが、それ自体が水を吸って給水源になるため過湿を防げません。水を吸わない発泡スチロールの厚板を底に敷くと、底穴の周りなどに残った水から植え込み材料を遮断することができます。また、セッコクや風蘭などの和蘭の栽培では、鉢の中ほどまでを空洞にして、湿りを無くし、根腐れを防いでいますが、洋ランにその知恵を取り入れましょう。
鉢底近くは表面から遠いためどうしても乾きが遅くなり過湿の原因になります。スリット鉢はその対策として広く用いられている方法で、スリット鉢の代わりに、透明容器の底近くに横穴を開けると、同じ効果があります。
さらに、こうすることにより、根腐れが防げるばかりでなく、「表面近くは乾いているのに底が湿っているため水がやれなくて水不足になる」ことがなく、水やりが早められるため、生長が良くなり、これまでよりも大株になって確実に咲き、一石二鳥です。
素焼き鉢をやめる
素焼き鉢とミズゴケの組み合わせは、植え替え後半年くらいは生長が良いですが、そうでなくても問題になるわけではありません。素焼き鉢のこのような利点は、期間が経ってコケが生えると無くなり、却って乾きが悪くなります。素焼き鉢はかさばり、再使用のために洗ってもなかなかきれいになりません。不要になった時の処分も大変です。かさ張らないプラスチック鉢、さらには透明ポリエチレンポットに統一していくと、手軽で身軽になります。
ミズゴケをやめる
ミズゴケも植え替え後の短期間は生長が良くなりますが、半年を過ぎたら効き目は無くなっていき、むしろ一年以上植えておくと劣化して根腐れの最大の原因になってしまいます。それ以前でも1週間以上水やりをしないと乾ききって水を弾きどんなに水やりしても鉢の中は乾いていて、水切れや根の枯れの原因になります。植え替えの時には、根から全部取り除くのが大変で、植える時には根の間に挟み込むのが大変で、詰める固さにより乾く早さなどが変わり水やりが難しいです。ミズゴケ植えは、水やりが多いとコケが生え冬に家に入れると水やり後のカビ臭がひどいです。また、ナメクジやショウジョウバエが住み着きやすいため、部屋の中で困ります。さらに、これまで無視されてきましたが、ミズゴケは貴重な湿原植物で輸入品です。バークかさらに鹿沼土に変えても、生長は大差ありません。
農薬をやめる
食べ物の農薬は気にするのに、洋ランの農薬は本の通りに毎月劇薬を撒いているのではないでしょうか。部屋に取り込めば、残留農薬は有害です。
 殺虫剤をやめる
カイガラムシは年に数回発生するため、殺虫剤に頼ろうとすると、確かに毎月やらねば、効果が上がりません。しかし、カイガラムシは孵化直後の幼虫以外は、殻をかぶっているため殺虫剤は効きません。従って、株元などに親虫が生き残り、何回でも発生するので絶滅できず、減ったと思っても薬をやめると再発します。
一方、カイガラムシの孵化直後は雨に弱く死んでしまいます。従って春から秋まで雨ざらしにしていると、カイガラムシは殆ど出てきません。そこで、原因となる親虫や、葉裏など雨が当たらず生き残って大きくなりかけた虫を、気づき次第丹念に取り除くと、絶滅も可能です。殺虫剤をまいていても、取り除く方が効果があるので手間は変わりません。
カイガラムシと同じような害虫のハダニも雨には弱いため、雨ざらしにしておくと殆ど発生しません。
 殺菌剤をやめる
害虫と共に恐ろしいのは伝染病で、殆どがカビによるものです。害虫と違って病気になる割合は低く、かかりにくい種類が多く、時期的にも発生は限られています。従って、殺菌剤を撒くと予防の効果はあっても、効率は低いです。
一番怖い病気は、コチョウランの炭疽病で、低温期に雨に当たり続けると発生しますが、そうでなければ発生しにくいです。低温期には、パフィオや、葉の薄いジゴペタやオンシやセロジネなどの新芽や生長点の新葉が茶色く枯れることがあります。これも割合は低く、親株がやられることはまれで、一鉢に幾つか新芽が出れば、残った新芽を育てれば良いのです。手間と、安全と環境への害と、多少の新芽の損失を天秤にかけて選択すれば良いでしょう。
小さい鉢をやめる
生産者のように早く咲かせる必要がなければ鉢を小さくしておく必要はありません。また、植え方や水やりで根腐れが予防できれば、鉢は大きくても大丈夫です。鉢が小さいと、夏は乾きやすく水切れで生育不良となって花が咲きにくくなります。また、過乾や高温、低温になりやすく、苗が弱りやすくなり、小さい苗ほど害虫にも病気にも弱くなります。
鉢を大きくして、水切れや極端な乾燥や高温を抑えると、苗の生育が良くなって、新芽が親並みに大きくなり、花が咲きやすくなります。ミニ洋ランは径9cm以上、大型種は10.5cm以上で、上限は扱いやすく透明ポリエチレンポットの上限である13.5cmにすると、種類が減って、鉢の用意も、世話も単純になり、その分生育も把握しやすくなって、うまく育つようになります。
吊り鉢をやめる
省略
バークをやめて和蘭・東洋蘭の培養土として定番の鹿沼土にする
バークも、有機物のため1年以上たつと湿りがちの処から腐って、植え替えしないと根腐れの原因になります。また、乾きすぎると水を吸わなくなるのも、輸入品で手に入りにくく買いだめしておかなければならないのもミズゴケと同じです。粒の大きさを色々用意しなければならず、種類・製品により性質も異なります。
これらは洋ランの先進国である英国や米国で使われているのを、他の国でまねして使っていると言えるでしょう。しかし、ランの栽培の歴史は、中国、朝鮮、日本の方が断然長いのです。東洋蘭や和蘭には、他の園芸植物と同様に鹿沼土が基本的な培養土として使われています。従って、鹿沼土はアジア原産のシンビジウムは言うに及ばず、セッコクと同類のデンドロビウムや、アツモリソウと同類のパフィオペディルムや、フウランと同類のバンダに適しているのは当然なのです。灯台元暗しで、赤玉土や鹿沼土、軽石に代表される「火山灰用土」は欧米にはない、最も優れた培養土なのです。
鹿沼土の良い点は、
含水量がミズゴケよりやや少なくバークより多いことから、ミズゴケのように過湿で根腐れすることなく、バークのように水不足で生育不良にならず、最適
ミズゴケは暑いときは極端に乾きが早く、寒いときは極端に乾きが遅く根腐れの原因になりますが、鹿沼土は乾く早さも冬はミズゴケより早く、夏はバークより早く、根腐れしにくいです、また、両者は湿りすぎか乾きすぎの両端でいる期間が殆どなのに対して、鹿沼土は徐々に乾いていくため、根腐れにも水切れにもなりにくく、パフィオのような弱い根にも優しいのです。
さらに、連続的に濡れた橙色から乾いた白っぽい色へと変わるため、水やり時期の判断が易しくなります。
さらに良い点は、無機質のため、期間が経っても腐らず、従って定期的な植え替えの必要が余りないことです。
また、いつでもどこでもすぐに手に入るため、買い置きする必要が殆どなく、勿論ミズゴケやバークに比べて圧倒的に安く、植え替え間隔が長いため使用量も減ります。
まさに良いことづくめで欠点の少ない安心な材料です。ただし、肥料だけは2倍くらいに多くする必要がありそうです。

これまでの方法は危険がいっぱい


これまでの方法は、慣れない人には危険が多く、コツをつかむ前に大半の人が枯らしてしまいます。
苗の入手
低温開花期に、花を見て入手:生長期までに枯れたり、次の花が咲きません
開花したての小さな株が売られている:温室でないと次に咲きにくいです
水やり
鉢の表面を見ながらの水やり:往々にして中が湿っているため、コツをつかむまでは根腐れが避けられません、鉢任せでは手がかかります
種類・季節・人により異なる水やり間隔:処方箋ではないので絶対視する必要はありません
鉢底から流れるまで水やり:一度乾いた鉢は水が素通りしています
植え方
植え替え:慣れないうちは枯れる最大の原因です
透明でない鉢に植える:湿っていても、根腐れしていても分かりません
スリットのない鉢に植える:上は乾いても下が湿っています
小さめの鉢に植える:枯れたり、生長不振で花が咲かなかったりします
バンダのバスケット植え:毎日水やりできないと大抵枯れてしまいます
ミズゴケは固く:貴重な資源を使いすぎで、地球に良くありません

苗作りの育て方から花を楽しむ育て方へ

洋ランのイメージというと大抵枯れるか花が咲かないかのどちらかです。本などで勧められている方法の通りにしていてもうまくいきません。
結論を言うと、これまでの方法は、生産者が苗を育てて開花株にして売るための育て方を、家庭の育て方でも基本にしていることに理由があるのです。家庭で育てる側から見た問題点をあげると
苗が小さくて花が咲かない
店頭にある苗は、種まきから育てて、生長ロスを避けるために植え替えや鉢増しをなるべく省いて、最短期間で最初の花が付いた株です。これを、家庭で、根腐れしないように水やりを控えたり、鉢が小さいからと言って植え替えすると、殆ど咲きません
鉢が小さくて枯れやすい
売られている苗の多くは、株に不釣り合いなほど鉢が小さいです。鉢が小さいと、一般に湿りと乾きの変化が球で苗に負担がかかります。また、根が十分伸びられないので生長が不十分で翌年咲きにくくなります。
小さいからと言って植え替え・鉢増しすると、一時期生長が鈍るため、やはり翌年咲きません
ミズゴケ植えは一般家庭に不向き
ミズゴケ植えは、生長が早いため苗の生産には適しています。
しかし夏は屋外冬は室内を基本とし、他の花と同じように水やり間隔を長くしたい育て方にはミズゴケは不向きです
高温では乾きやすく水切れしやすい、反対に冬は過湿で根が冷え根腐れしやすい
ミズゴケは乾くと水を弾くため、水やりしても水を吸わず、水やりが大変な上に、枯れることがある
ミズゴケは、屋外でナメクジ、ショウジョウバエの巣になり、室内に持ち込むとこれらとカビ臭に悩まされる
バーク植えは一般家庭には不向き


1 温室は使わない

温室の問題点:大がかりな設備、場所を占有、建設費がかかる、運転が必要、補修が必要
温室は不要:温室は元来冬の防寒のためのものでした。しかし、家の暖房が普及し保温が良くなった今日では、部屋の最低温度を20℃に保つ方が温室の最低温度を15℃に保つよりも容易で、経費もかかりません。一方、温室では夏は暑すぎたりして屋外に出す位なので、温室は必要ではありません。

2 素焼き鉢は使わない

素焼き鉢の問題点:素焼き鉢とミズゴケの組み合わせは、プラスチック鉢やバークが使われるようになる前の標準的方法でした。この海合わせは、植え替え直後の半年くらいはとても調子が良いので、生産者や趣味家には歓迎されますが、それを過ぎるとどちらも通気や水はけが悪くなり、生育が悪くなります。従って長期的には、頻繁に植え替え、鉢を再使用するなら洗浄、予備の鉢を色々な大きさを用意しておくなど、手間も場所も経費もかかる家庭では非効率な方法です。プラスチック鉢が普及してからは大きいものほど価格もむしろ高めです。プラスチック鉢とバークの組み合わせが劣ることはありません。

3 ミズゴケは使わない

ミズゴケは主にコチョウランなどに、素焼き鉢との組み合わせに限らず広く使われています。短期間で植え替えを繰り返すなら生育は良く、開花も早くなって生産には適しています。しかし、半年を過ぎると生育は悪くなり、1年以上植え替えないと根腐れしやすくなります。植え替えの手間が大変で、カビ臭・ナメクジ・ショウジョウバエが湧きやすく、屋外と室内を往復する家庭での栽培には問題です。また、ミズゴケは湿原の生態系の基本となる植物なので、ミズゴケの乱獲は自然への驚異です。プラスチック鉢とバークの組み合わせが劣ることはありません。

4 遮光ネットは使わない(通常)

鉢が少ない内は遮光ネットは大げさで、反対に種類や鉢が多くなると全部の鉢を、家庭で種類ごとに異なる遮光率のネットで覆うことは不可能です。1年の大半は、木漏れ日、木陰、物陰、日陰などを利用して適当に遮光することが可能です。室内から屋外に出したばかりで確実に遮光したいとか、真夏の強い日光を適度に遮る方法がないときなどには活用すると良いかもしれません。


3 これまでの常識と問題点、こうしたら

植え替え

植え替えはどうやるかより、するかしないかの方が重要→初めは鉢換え、次は衣替え、さらに鉢増しと土寄せ、本格植え替えは慣れてから

植え替えと言うと、殆どがそのやり方伸びを述べています。しかし、他にも書いたように、植え替えは最も枯れる危険の多い作業です。特に慣れないうちは、「植え替えをしない」ことがもっとも重要と言えるほどです。
透明のポットに植えていると、新しい根が伸びて、鉢の縁に出来てきます。こうなったら、鉢と根の隙間に植え込み材料を足して、根を包むようにすると生長が促進されます。薄くて柔らかいポリエチレンのポットなら、鉢を大きくしなくても、植え込み材料を挿入することができます。鉢を一回り大きくする鉢増しをしても構いません。根に負担をかけなければ、何時でもできます。

鉢は小さめに→根腐れの心配がなくなったら大きめの鉢に

これも洋ランでは常識とされていますが、その結果苗の生育が悪くなり、脇芽が年々小さくなって咲かないことがあります。根腐れ防止を鉢を小さくして防ぐのは余り良い方法とは思われません。また、根が鉢いっぱいにならないと咲かないので鉢を大きくすると開花が遅れると言われますが、小さい鉢で株が大きくならないよりは、万一遅れたとしても株が大きくなった方が、花が咲く可能性は高いです。

植え替えは新芽か新根が出た時に→前からある根を大事に

これは、時期の目安としては適当と思われますが、大事なことを考えないことになります。植え替え後の生長が良いことが理由に挙げられていますが、植え替え後、まず大事なことを考えない結果になると思います。植え替え後にまず大事なのは、早く根が水を吸うことです。植え替えたからと言って、苗からの蒸散が落ちるわけではないので、苗の水分はどんどん失われます。前からある根が新しい植え込み材料から水分を吸収できないと、苗は衰弱してきます。植え替え後が最も枯れやすいのはこのためと思われます。そうさせないためには
根が活動中であること
根と植え込み材料がしっかり馴染むように、根とのあいだに隙間ができないように植え込む
植え替え後なるべく早く水をやる
ことが最も大事です。

ミズゴケは固く→ミズゴケは柔らかく

ミズゴケ植えと言うと、固く植えると言うのが大勢です。理由は色々ありはっきりしませんが、一つにはその方が水が多く入るということがあります。しかし、現在主流のバークは給水量がとても少ないにも拘わらず使われていることからも、それより圧倒的に保水量の大きいものを大きくしなければならない理由はありません。
ミズゴケを固く植えるのは柔らかい場合の2倍程度のミズゴケを必要とします。これは、費用がかかり、貴重な資源を多く使います。また、ミズゴケを固く植えると、乾いたときに固まってしまい、それ以後は水を吸収しにくくなります。
柔らかく植えた時の困ることの一つは根がぐらぐらすることですが、支柱を立てれば済むことです。そのために固植えするのは余り勧められません。

バンダのバスケット植え→巻き寿司植え

バンダはバスケット植えが最良とされています。その一方で根が乾くので毎日霧吹きなどとても大変な世話が必要とされています。これでは、重荷です。ミニバンダであるフウランは、我が国ではミズゴケの高植えで、根腐れが問題になることは殆どありません。これは、要するに根を薄着にすれば良いと考えました。そこで巻き寿司植えにしたところ、根が伸び、新しい葉が出て、枝根が出ました。花茎も出てきました。水やり間隔は少なくともシンビジウム並みで大丈夫です。

提案

植え込み材料
衣替え
標準の植え方
バンダの巻き寿司植え
大鉢作り
土寄せ

野菜などでは、根元に根ができたら土寄せをします。洋ランでは、元来が気根なので、新しい根が植え込み材料の表面にできるのが普通ですが、栽培書などで、土寄せについてみることはありません。コチョウランでは、気根がたくさん出るのは良いことだという位です。
洋ランの根は少ないので、新しく出た根は貴重です。表面の根に植え込み材料を被せてやると、裸で放っておくよりも、水分や肥料を吸いやすく生長が促進されます。また、ちょうど暑い時期なので、根を保護することにもなります。

水やり

水やりは鉢の表面が乾いてから→透明ポットに植えて中が乾くのを確かめてから、鉢ごとの乾きを揃えて手間を減らす

鉢の表面が乾いても中は過湿で、水やりして根腐れするということは良くあります。根が弱っているほど、表面は日射で乾いても、中は根が水を吸わないため過湿が続きやすいので、根腐れを早めることになります。コチョウランで使われている透明鉢に変えて、中を見ながら水やりする方が失敗がありません。

水やりは鉢底から流れるまで→透明ポットに植えて、真夏は中がたっぷり濡れるのを確かめるまで、それ以外は全体が確実に湿るまで

水やりは頻繁に少しずつやるより、鉢が乾いてからたっぷりやるように言われ、その目安として、鉢底から水が流れるまでと言われます。しかし、ミズゴケやバークは一旦乾くと水を吸わなくなるという性質があります。特に古くて固くなった鉢の中心のミズゴケや、小粒のバークは、周りが水を吸っても中に行くほどからからです。鉢底から流れるまで水をやっても、水の通り道を素通りするだけで、植え込み材料は湿らず、枯れの原因になります。
特に高温の生長期には、鉢の中の植え込み材料全体が湿るまで水をやる必要があります。夕立などの雨にさらすと、時間をかけて水が中まで滲みこみ、それからは植え込み材料が水を吸いやすくなります。反対に低温期には、ミズゴケやバークが芯まで水を大量に含んでいると、日がたっても湿りが続き、根腐れの原因になります。低温期には、粒の芯まで濡れて真黒になるようなことは避けた方が良いです。は

植え替え後はしばらく水をやらない→根が健康で活動しているならなるべく早く水やりを開始

上と同じ理由で、植え替え後に水やりをしないと、苗が弱ります。また、日焼けもしやすくなります。水のやりすぎや、植え替えで根を切ったりした場合や、根が弱っている苗の場合はともかく、株も根も健康で、活動を開始している苗なら、湿らせた植え込み材料で植えるか、植え替え後なるべく早く水をやって、吸水が落ちないようにする方が良いと思われます。

置き場所など

最低気温を目安→生長期は最高気温を目安へ

洋ランの温度と言うと、高温性・中温性・低温性と、冬の耐寒性ばかりが取り上げられます。確かに枯らさないためには重要なことですが、家の防寒性が上がり、暖房が普及した現在では、乱暴に言えば、全部の苗を最低15℃以上に保てば、これまで言われていたような問題は無くなってしまいます。
冬に枯れる心配が無くなったら、本来の目的である、生長させて花を咲かせることの方が重要ですが、それと温度の関係には殆ど触れられていません。生長期の生長は、最高気温によって決まります。従って、生長期には最高気温の方が重要なのです。
最高気温が25℃を越すと(夏日)、鉢の乾きが目立って早くなります。反対に35℃になると(猛暑日)、鉢はすぐにからからに乾き、毎日水やりをしなければならない位になります。30℃を越す(真夏日)と、

遮光率・遮光ネット→日向・木漏れ日・葉陰・木陰・日陰などを利用、季節によってネットを変えるのでなく場所を変える

洋ランの世話では、種類によって遮光率が10%きざみで指定されていたり、月によって遮光率が変わって、遮光ネットを付けたり、重ねたりとせつぃ明されています。そもそも、日射は有害のようなイメージです。植物は日射と高温がなければ光合成ができません。日焼けはしないけれど、生長が不十分で花が咲かなければ何にもなりません。
日射が強く猛暑の時期を除けば、洋ランを大きく育て、花を咲かせるためには、できるだけ多くの日射に当て、それと同時に日光で高温の処に置くのが最善です。家庭では「遮光率の異なる」種類を一緒に育てなければならないことも多いでしょう。
大まかには、遮光率を直射、木漏れ日(葉陰)、木陰、日陰、位の4段階に分けて考え、置き場所もそのようにすれば良いと思います。季節が変われば、置き場所を変えるのがもっとも簡単で、現実的です。

雨ざらしは病気の元→高温期には雨ざらしは生長を助け、害虫を抑える

日射と共に雨ざらしは諸悪の根源のように言われています。雨ざらしにすると多くの種類が病気になったり、根腐れしたりしそうです。
しかし、市販されている殆どすべての種類の洋ランは、少なくとも真夏の雨で病気や根腐れになることはありません。むしろ、害虫退治に効果的です。カイガラムシ類とハダニは、乾燥で繁殖し、雨には弱いです。雨ざらしにしておくと、ハダニの害はなくなります。また、カイガラムシ類の繁殖はなくなるので、親虫を除いてやれば絶滅させられます。カイガラムシは外来種なので、一度退治できれば、新しく入手する苗に付いていない限り再発しません。
真夏の雨ざらしは、乾いて水を吸わなくなったミズゴケやバークの回復に最良の対策です。生長が良くなる結果、花も咲きやすくなります。
病気になりやすいコチョウランは、真夏を除いては長雨に当てない、寒い時期の長雨でカビ病になり時期には、シンビジウム以外は葉に少し病気が出ることがあります。例えばデンドロビウムでは致命的な害になることはありません。他の種類でも、葉が少し減るのと害虫がいなくなるのと、どちらをとるのが良いかという位です。ただし低温期に雨ざらしが続くと根腐れの危険が増します。

病気と害虫

毎月一回予防のために殺菌剤と殺虫剤を→丈夫な種類に限り、無農薬で育てる

ひところの野菜のように、形は完璧、虫の跡のない苗を作るのは、品評会に出すには必要でしょうが、一般家庭で花を楽しむには、減点法の必要はありません。また、趣味家は病気や害虫に弱い種類に挑戦しますが、家庭園芸で楽しむにはそれらは楽しみよりも心配、開花よりも枯れる方が多いのではないでしょうか。環境にも人体にも有害な毒薬を予防のためとして必要以上に使うのは考え物です。生産者の中にも、野菜と同様に無農薬栽培を心がけているところがあります。市販されているような種類は丈夫です。また、開花年齢に達したばかりのような小苗は弱いですが、大株は丈夫です。無農薬で育てられるような丈夫な種類と苗を育てる方が、気楽です。

年間の世話

種類ごと・毎月の世話→大半の種類を同じ管理、年間を2通り、季節は日の高さと最高気温の変化に合わせて

大多数の園芸書は、種類ごとに分かれ、月ごとの世話が書かれています。同じような月には同じことが繰り返し書かれており、どうしてそうしたら良いのかは余り良く分かりません。
洋ランの年間の世話で、一番大事なことは、真夏は温度を下げ、水を切らさないようにし、それ以外の一年の大半は、できるだけ温度を高め、水やりに気をつける、ということではないかと思います。従って、年間の世話は、基本的にはこの二通りだということです。種類によって、大雑把にはその境目や、温度をどこまで低くしても大丈夫かが異なるにすぎないと言えます。
次に細かく分けると、生長期の最高気温(と日の高さ)に応じた変化に対応することです。夏の中では、猛暑日(最高気温35℃以上)の期間は生長がやや落ちるので、生長よりも夏負けしないことを優先し、根腐れの心配が殆どないので水をたっぷりやります。それに近い真夏日(最高気温35℃以上)、最高気温25℃以上の夏日は、春からであれば生長が本格化し、夏からであれば充実して花芽が出始める時期ですが、それほど水分は必要としません。

提案

放任栽培


未開花小苗から育てる

7.12 趣味家には優れた方法、消費者には安全な方法
2011.5.17 苗作りの育て方から花を楽しむ育て方へ
2010.10.7一覧と要約、従来なかった新しい提案を作成
2010.7.9 掲載開始