21世紀の洋ランの育て方と咲かせ方
第一部
洋ラン気象庁
洋ランの置き場所
−温室はいらない



初めに−日光と雨の恵み
温室と遮光無しでも蘭は育ちます
基本のパターン
予備知識
置き場所の選び方
気候の節目
1年の置き場所の変化(引越)

1 初めに−日光と雨の恵み

これまでの洋ラン栽培では、根腐れを防ぐために水やりを控えめに、日焼けを防ぐために遮光して、病気を予防するために屋外では雨ざらしにしない、ということが強調されています。しかし、植物は本来、日光と雨の恵みで生長し花を咲かせるので、特に温室なしで育てるには、日光と雨のポジティブな面を利用することが大事です。根腐れは植え方で、日焼けは苗に十分水やりをし木陰などを利用することにより、病気は低温の雨の時だけ雨除けをすることにより、大部分防ぐことができます。置き場所については、具体的に方法が述べられていることは少ないです。

2 温室と遮光ネット無しでもランは育ちます

温室の本来の役割は冬の防寒でしょう。高温種は最低温度15℃以上、中温種は10℃以上とされ、家の中ではそれが保てない時代にぜいたくな趣味である洋ラン栽培では温室が不可欠でした。しかし、今や居間の最低温度を15℃に保つのは普通に近くなっています。もちろん、家の中には温室ほどの日当たりはないので、生長を望むことはできませんが、冬は本来が休眠期なので、春の生長開始に影響を与えなければ十分です。
洋ラン栽培を一生の道楽として続けるならば、温室は不可欠かもしれません。しかし、他の花と同じ感覚で洋ランを楽しみたい、という人には、温室を使わない方が自然ではないでしょうか。
一方、洋ラン栽培では強めの遮光が常識のように言われていますが、遮光無しで育てている人もいるように、絶対ではありません。遮光と言うとすぐに%を考えますが、自然には%はありません。大まかには直射、木漏れ日、日陰の3段階がある位でしょう。屋外での栽培でも屋内でも、置き場所は変えずに、季節によって遮光率を変えるのが常識になっていますが、そうでない方法も有ります。
落葉樹のもとでは、葉がある時と無いときの差も利用できます。
生産者並みの生長と開花を要求しなければ、温室も、種類ごとに異なる遮光に頭を抱えることもいりません。遮光は却って日の恵みを犠牲にするという問題があります。
温室と遮光無しに栽培するためには、特に屋外で、適切な場所に置く必要があります。日光と高温を利用するには南向きの日向に置くのが最も良いわけですが、日差しの強かったり温度が高い時期には、特に日焼けしやすい種類では日焼けが起きてしまいます。

3 基本のパターン

屋外と室内で育てる場合、普通は、いつ外に出していつ中に入れるか、置いた場所で遮光率を変えるためにどんなネットを使い、枚数を季節に応じて変えるかということしか考えられていません。
また、屋外との出し入れの基準は夜の最低気温だけです。
ここでは、
@屋外と屋内の出し入れにおいては、なるべく屋外に長く置いて日射と昼の高温を利用する
A屋外においては、真夏以外はいかに温度を高めて生長を促すか、真夏は温度を下げるかの2通りを考える
B屋外においては、全期間を同じ場所で人工の遮光率を季節により変えていくのではなく、季節に応じて天然の遮光(落葉樹の茂りと日の高さが変わる)を利用するために適した場所へ移動する方法をとります。具体的には
早春と晩秋は、強・中光種はほぼ遮光無し、日当たり良く、寒さがしのげる処、雨ざらしも避けたい(例えばテラスの軒下)、遮光は日の低い時期はシンビジウムの陰
春から秋まで、夏を除いては、一部を除き日向で木漏れ日雨ざらし、種類に応じて、日除け・雨除け、秋雨前線以降は雨が続けば雨除け
夏(連休から梅雨明け前)、
真夏(梅雨明けから秋分まで、猛暑日と真夏日)は、真昼と午後早くの直射日光を避ける
冬は、最低温度に注意して日の差す屋内に取り込む

以上は、初めての洋ラン、で育てることのできる、シンビジウム、デンドロビウム(低温・強光種)に当てはまります。他の種類は以下に説明するように少し変える必要があります。
7.15追加

3 予備知識

置き場所を選ぶに当たっては、種類による違いについての以下のことが基本になります。一般に、日射や遮光の程度については、強光種・中光種・弱光種と3段階に分けられています。また、冬の防寒に関しては、高温種、中温種低温種に分けられます。このような分け方があることを、予備知識として紹介します。

強光種、中光種、弱光種

強光種、直射日光でほぼ構わない種類で、シンビジウム、デンドロビウムが該当します。
中光種、ある程度の遮光が必要とされている種類で、大部分が該当します。
弱光種、日除けがないと日焼けを起こしやすいとされている種類で、コチョウランとパフィオペディルムが該当します。、

高温種、中温種、低温種

高温種、熱帯や亜熱帯産で、一般に冬の最低温度が15℃以上必要であるとされています。
中温種、最低温度10℃以上とされています。

ランの仲間15属

低温種、最低温度5℃以上とされています。
洋ランにはたくさんの種類があり、産地や生える場所や、性質が異なっています。ここでは、特殊なランを除いて、店頭でよく見られる大半の属をとりあげています。そして、分かりやすいようにこれまで言われている5大属、に加えて新たに名付けた新5属、続5属の計15グループに分けました。なお、高山種と言われる種類は他の種類よりも枯れることが多いので基本的にはとりあげません(ミルトニアで耐暑性のある種類が出回り始めるなどあります)。



5大属シンビジウム、デンドロビウム、カトレヤ、コチョウラン、パフィオペディルム
新5属オンシジウム、エピデンドラム、ジゴペタラム、セロジネ、バンダ
続5属デンファレ、アスコフィネティア、グラマトフィラム、デンドロキラム、キンギアナム
高山種ミルトニア、リカステ、オドントグロッサム、ソフロニチス、マスデバリア

従って、その組み合わせで9群に分けられることになります。

強光種中光種弱光種
高温種デンファレコチョウラン、バンダ、グラマトフィラム
中温種デンドロキラム カトレヤ、オンシジウム、エピデンドラム、ジゴペタラム、セロジネ
アスコフィネティア、オドントグロッサム、
パフィオペディルム
低温種 シンビジウム
デンドロビウム



雨ざらしの問題など

雨ざらしが問題になるのは、病気が発生することがあるからです。特に低温期の長雨によりカビに起因した病気が発生しやすいとされています。これも種類による差が大きく、コチョウランの炭疽病が一番顕著で、他にもカトレヤ、デンドロビウムなどがあります。
雨ざらしと言うと害ばかりが言われますが、カイガラムシの幼虫は雨に弱いので、幼虫発生期に雨に当たっていると被害が減ります。ハダニも雨に弱いので、雨のかからない温室よりも屋外の方が被害が少ないことがあります。

4 置き場所の選び方

ランに合わせて置き場所を作るよりも、現実的なのは、ある場所をどう利用するか、何を置くことができるかを考えることでしょう。代表例を考えてみましょう。

雨除けと雨ざらし

これまでは、雨ざらしは病気の元であるかのような負のイメージが強かったです。また、温室栽培からは雨ざらしのイメージは湧かないでしょう。従って屋外の置き場所は雨除けのある処に限られていたような気がします。雨の効用は、高温の生長期に十分な水を与えられること、乾いて撥水性になった植え込み材料を回復させ枯れを予防すること、カイガラムシや葉ダニの蔓延を防ぐことがあります。従って、高温期で病気に強い種類を屋外で育てるには、雨を上手に利用することが大切です。根腐れに強い植え方をすれば、健康な苗は雨ざらしを歓迎します。春や秋は軒下で斜めの雨はかかってしまうくらいでも大丈夫です。夏は大半の種類が雨ざらしで大丈夫です。
病気になりやすい種類は特に低温期には雨除けが必要です。コチョウランを1年中室内で育てるのは雨除けの点では適切です。

冬の温度

冬に高温種、中温種、低温種を一緒に室内で育てるにはどうしたら良いでしょうか。

最低温度を15℃以上にする

大は小を兼ねるというように、中温種、低温種には十分すぎる温度ですから、寒さに痛む心配がなくなります。部屋の防寒が良くて、深夜だけの簡単な暖房で実現できる場合の一つの方法です。鉢の乾きは割に良いため、根腐れは少なくなるようです。冬の根腐れは一方、休眠期に温度が高すぎて、日光が不足しているため、水やりが多いと、徒長する恐れがあります。また、花の寿命が短くなります。

最低温度を5℃以上にする

反対に低温種に合わせる方法になります。高温種、中温種と言っても、大部分は冷害なしに越冬することができます。ただし、休眠するので、春の生長開始が遅れて、複茎種では脇芽の生長が不十分となり、花がやや咲きにくくなります。また、コチョウランやバンダの、単茎・高温種では、根の先の根冠が傷んで、やはり春の生長再開が遅れます。

置き場所の例
南向きのテラス

冬に高温種、中温種、低温種を一緒に室内で育てるにはどうしたら良いでしょうか。

段階別の置き場所
1 初めての洋ランの置き場所(シンビジウムとデンドロビウム)

シンビジウムとデンドロビウムは、低温・強光種に分けられ、洋ランの中では暑さ、寒さ、強い日差しに強く、根腐れしにくく、病気や害虫にも強い種類です。従って、普通の鉢花に近い、日向の雨ざらしの処に置くことができます。
春から秋まで、真夏を除いて、南側の日当たりの良い場所に置けます。地面にじかに置くと、ナメクジがきて新しい葉を食べ、アリが鉢に巣を作り、風通しや、水はけが悪くなり、コンクリート面では鉢が高温になって根が枯れるので、鉢ケースなどを敷いてその上に置きましょう。
真夏は、真昼の直射と午後早くの西日の避けられる場所に置く必要があります。南向きで1日中日の当たるような日向では、日焼けを起こします。
冬は、屋内に日当たりのよい場所があれば、最低気温5℃以下の期間に入れてやると、春の脇芽の生長が早く、開花しやすくなります。そうでない場合は、殆ど屋外に置く方法も有ります。家の南向きの軒下で、日当たりが良く、北風の防げる処にします。実際の温度で零下5℃に下がると、凍害を起こして葉も蕾も枯れます。実際の温度は天気予報や、最低気温の報道より低いことに注意しましょう。
7.15追記

5 気候の節目

これまでの洋ラン栽培の入門書では、大抵、1つのグループだけを対象にして、毎月の作業を書き下すという方式が取られています。植え替えや水やりが主体で、置き場所をきちんと述べているのはまれです。しかし、実際には複数の性質の違う種類を一緒に育てていることが多く、種類ごとに別の本を見てその通りにやろうとしても無理があります。また、世話は気候のの変わり目ごとに代えていく方が実際的です。そこで、最高気温、最低気温などに着目した暦を示します(リンク先)。

季節ごと・グループごとの置き場所の例

真夏(梅雨明けから)強光日焼け・高温猛暑日真夏日夏負け・水切れ
北壁際は直射が当たらず





南車庫透明屋根付きコンクリート床東側午後物陰
強光1シンビジウム
北塀前日当たり 昼間物陰
朝夕日当たり

強光2デンドロビウム・ミニバンダ
西塀内真昼まで日当たり
強光12キンギアナム・12+大明セッコク・五報才蘭・五+駿河蘭
南庭植込み陰 木陰
保湿

中光6オンシジウム・3ミニカトレア小苗*・一石斛*・二風蘭*・16マキシラリア・15デンドロキラム大苗*・14グラマトフィラム
北植込み間 朝夕木漏れ日
保湿


3ミニカトレア大苗、7エピデンドラム・11デンファレ・11+フォーミディブル
5パフィオペディルム
南ブドウ棚下 木陰
保湿

中光10バンダ・4コチョウラン
北壁沿い軒下 直射なし
雨除け

中光3カトレヤ、8ジゴペタラム・9セロジネ・aミルトニア
北棚・遮光ネット囲い雨除け 遮光
雨除け


4コチョウラン・4ミニコチョウラン
北植込み下 木陰
保湿

弱光5パフィオペディルム斑入り厚葉種*・15デンドロキラム小苗
植込み下地植えなど 木陰
保湿


春蘭・四エビネ











赤は強光、桃はやや強光、紫は少し強光で高温防止、茶は中光、緑はやや弱光、青は弱光
小型種(後に*印)は日焼け・水切れしやすい

6 1年の置き場所の変化の例(引越)

1月

全ての種類が室内にあります。冬至では日が最も低く、室内にも良く日が入って、健康な苗は元気です。最低温度はまだ下がりきりませんが、最低室温が15℃を下回り、高温種も育てているなら、温度の下がる深夜から夜明けにかけて15℃以上に保てるよう、熱輻射式の補助暖房をつけると、効果的です。こうすれば、鉢も適度に乾き、毎週1回位の水やりになります。

2月

引き続き全ての種類が室内にあります。1月と同じように過ごします。

3月

次にあるように、低温種のシンビジウムやデンドロビウムは屋外に出せます。そのほかの種類は室内で1−2月と同様に過ごさせます。低温種と中温種は屋外への取り出しと同時に植え替えをすると、便利です。


春の屋外への取り出し(3月、4月、5月初め)

これまでの栽培法では、低温種は最低気温が5℃、中温種は最低気温が10℃、高温種は最低気温が15℃になってから屋外に出す、というのが常識です。しかし、これは防寒だけを考慮しており、春の日差しを利用するという視点が欠けています。また、ランは1日だけの低温にそれほど過敏なわけではないでしょう。また、年により最低気温も変わり、毎日気温を気にするのも大変です。
低温種は3月初め、中温種は4月初め、高温種は5月初めという風にすると簡単で、早くから日の恵みと昼の高温を受けられ、生長が良くなります。

4月

中温種を屋外へ出します。それまでも、できれば晴れの日にはたまに日向に出してやると良いのです。初めは直射日光は避けて

5月

いよいよ、高温種のコチョウランとバンダも屋外へ出します。

梅雨(6月後半)

高温や十分な雨という点では、生長が本格化する時期です。草木が茂ってくるので、適度な木陰や草陰におけば、遮光をしなくても大丈夫です。一方、特に慣れないうちは、植え方が不適当で雨ざらしにしておくと過湿が続いて根腐れしたりカビによる病気になったり、日向に置いておくと晴れ間に日焼けしたり、という問題があります。夏至の前後で日が最も高くなるので、日焼けにも病気にも弱いコチョウランは、南向きの軒下に置くことができます。こうすると、コチョウランに最も必要な高温が得られ、生長が活発になります。
梅雨が明けるまでは、曇りや雨の日にはできるだけ、日除けや雨除けから広い所に取り出して明るい光を浴びさせるのが良いと思います。

7月

7月に入る前後から、もう日が低くなり始めます。軒下にも日が入るようになるので、日が当たる恐れが出てきたら、コチョウランは前面に葉影を作るシンビジウムやデンドロビウムを置くか、日の当たらない場所に移動しましょう。
梅雨が明けるまでは、大半の種類について、遮光シートなしで過ごすことができます。棚を使っている場合は棚の下の段はセロジネやコチョウランなどの弱光種または日焼けしやすい種類の置き場所に使えますが、光量が1/10以下と少ないので、置きっぱなしでは花が咲きにくくなります。

梅雨明け(7月後半)−真夏・初秋(秋分まで)

梅雨が明けると、猛暑になります。全ての種類が日光を弱める必要シンビジウムやデンドロビウムも、南向きの日向のテラスなどでは日焼けをしたり、根が傷んだりするので、下が涼しく、西日の当らない場所に置く必要があります。一方、夕立などの真夏の雨は、苗をぐんぐん大きくさせます。また、水やりしても乾いてしまいやすい植え込み材料をもう一度湿った状態に戻してくれます。しかも、健康な苗なら根腐れの恐れがなく、高温なのでかびによる病気が発生することもないので、雨には当てるようにします。
8月
車庫の透明屋根の下 植込みの陰
  
家の北側 縁側の軒下

盛秋

春に比べ秋の方が温度が高いので、日は低くなっていますが、日焼けの恐れは続きます。涼しくなるまでは、シンビジウムやデンドロビウム以外は、温度の上がる南向きの日向で直射日光に当てることは禁物です。中光種以下は、強光種の葉陰が一つの方法です。


晩秋

最高温度が低くなり、直射日光でも日焼けしないようになったら、南向きのテラスなどで、できるだけ日当たり良く、昼に根が温まるようにして、苗を充実させます。ランの葉同士も重なりあわないように、株間を広げると良いとされています。

初冬の屋内への取り込み(10月、11月、12月末)

春の取り出しと同様に、日光と昼の高温を利用するため、また、世話を簡単にし、家の中をなるべく手狭にしないため、高温種は10月末、中温種は11月末、低温種は12月末に取り込むのが一つの目安です。

10月末

高温種は屋内に取り込むのが一つの目安です。

11月末

中温種は屋内に取り込むのが一つの目安です。

12月末

低温種は屋内に取り込むのが一つの目安です。


8.19 季節ごと・グループごと置き場所表
11.3.10 洋ラン気象庁に繰入
7.28 遮光の色々な方法を項目に昇格
7.15段階別の置き場所追加
7.2第1版本文・表完
2010.6.30掲載開始