洋ランは、殆どの人に、枯れやすく咲きにくいものと思われています。また、その理由は育てるのが難しいか、温室がないからと考えられています。
しかし、そうではありません。売られている苗が既に根腐れしていたり、枯れやすい種類や咲きにくい小さな苗が売られていることが多いのです。
従って、これまで余り言われていませんが、そのような苗を避けて、育ちやすく、枯れにくい苗を入手するだけで、驚くほど世話が簡単で、易しく大きくなって、良く咲きます。それから比べると、そうでない苗を入手した場合は、手間をかけてもすぐに枯れたり、本にあるような難しい世話が必要だったり、そのようなことを何年続けてもいっこうに咲かないということになります。
園芸店に行くと、珍しい洋ランがきれいな花を咲かせていて、つい欲しくなってしまいます。しかし、その中には、普通にやると枯れてしまう種類があります。特に、我が国の気候に合わず冷房が必要な種類、クール・オーキッドは、花が終わったら枯れるのが普通なので、特別な設備があったり、まめに世話をする暇のある人以外は、後回しにすべきでしょう。高山植物が多く、我が国の山野草と同じです。植物が可哀想です。なお、これらの種類の中にも、耐暑性のある種類もあるので、始めるなら、それらからにすると良いでしょう。
クール・オーキッド:ミルトニア、リカステ、オドントグロッサム、ソフロニティス、マスデバリア
洋ランの中には、丈夫で咲きやすい種類と、枯れやすかったり、育ちにくかったり、咲きにくい種類があります。丈夫で咲きやすい種類を選べば、世話が簡単で、どんどん大きくなって、病気にならずに、良く咲いて楽しむことができます。一方、やや難しい種類を選ぶと、苦労ばかりでなかなか花を見ることができません。従って、丈夫で咲きやすい種類を選んだ方が後が楽です。
種類と言っても、大きくは、グループを選ぶことです。
ランは、耐寒性の順に、低温種、中温種、高温種と分けられます。シンビジウムやデンドロビウムは低温種の代表で、例えば東京の都市部なら、1年中屋外で育てられます。反対に高温種の代表はコチョウランやバンダで、冬の最低温度が18℃と言うのが目安で、夜暖房を切ってしまう部屋では冬は休眠し、春になっても回復しないことがあります。一般に低温種、中温種(カトレヤなど)、高温種の順に丈夫で育てやすいです。
ランのもう一つの分け方は、強い日光に対して日焼けしやすいかどうかで、シンビ、デンドロなどの強光種、カトレヤ・オンシなどの中光種、コチョウランやパフィオペディルムなどの弱光種に分けられます。弱光種は少しでも直射日光に当たると日焼けすると思った方が良いでしょう。中光種でも直射日光には耐えられないので、ほぼ1年中何らかの遮光が必要です。強光種でも、真夏の昼以降の直射光では日焼けし、そうでなくても遮光が必要なことがあります。遮光の必要な種類ほど、手間が増えます。
次に考えなければならないのは、病気への抵抗力です。ランはバラほどではありませんが、色々な病気があります。ただし、殆どはカビによる病気で、低温・多湿期や雨ざらしにより起きます。普及している中で、最も病気にかかりやすいのは、コチョウラン、特に大型種です。しかし、真夏以外は雨ざらしにしなければそれほど心配はいりません。その他の種類や病気は致命的になることは少ないですが、パフィオは低温・多湿で枯れることがあります。
同じグループの中でも、丈夫で早く大きくなり良く咲く種類と、抵抗力が弱く育ちにくく咲きにくい種類があります。
カトレヤやコチョウランでは、大型種は相対的に弱くて咲かせにくく、ミニの種類の方が丈夫で咲きやすいです。これは、大型種は一般に熱帯産の高温種であるのに対し、ミニ洋ランはそれらと温帯産の小型の種類の交配種で寒さに強いためです。
その他の種類は一般に、小型種よりも、大型になる種類の方が、育てやすく、咲きやすいようです。特に、小型種は、若くて親になりきっていない苗が売られていることが多く、そのために、苗の抵抗力がなかったり、株に力がないため何年たっても株が大きくならないなどで、枯れやすく咲きにくいことが多いです。
同様に、生長旺盛な種類は良いですが、新芽が出にくいなどと言われている生長力の弱い種類は、苦労します。
他の目安としては、やや高度になりますが、新芽が出てから咲くまでの間に夏や冬を挟む種類は、慣れないうちは咲かせるのに苦労します。
セロジネ:右バルブの大きなインターメディア、左小さなクリスタータ デンドロキラム:右株のバルブも大きなグルマセウム、」左小さなフォルモーサナム
パフィオ:右大きな緑葉系ロビン・フッド、左小さな斑入り葉系マジック・ランタン
同じ種類でも、丈夫で咲きやすい苗と、育てにくく咲きにくい苗があります。苗を選ぶときは、つい良く咲いているかどうかに目を向けがちですが、贈り物はともかく、育てて楽しもうと思ったら、別の視点が必要です。
本には苗の選び方は殆ど書いてありません。書いてあっても、せいぜい株がしまっている、葉が上を向いている、病気や虫がない、と言って程度です。
苗を選ぶ第一のポイントは、「大きい苗」です。同じ種類では、大きい苗ほど、力があって、温室から家庭の屋外に移った時に、作落ちせずに、脇芽が花の咲く十分な大きさに育ちやすいからです。勿論、相対的に乾きや日光にも強く、病気や害虫がついても、持ちこたえる体力があります。大きい苗は値段が高いのが普通ですが、これから花を咲かせるつもりなら、花が終わって値下げされた苗を選ぶ方法もあります。小さい苗は咲きにくく枯れやすくて買い直しをしなければならず、時間がかかることを思えば、少しでも咲きにくい種類を育てようと思うなら大苗を買う方が得策です。
葉が長くて幅広く、艶があって上を向いているほど元気です。葉が垂れさがったりしわがあるものはやや元気が不足しています。黄色くなっている葉が多いのは論外です。
シンビジウムやカトレヤなどの複茎種の多くは株の根元が太くてバルブ(偽球茎)と呼ばれています。オンシジウムなどでは、縮んで皺が寄っている場合があり、根腐れしていることがあります。
根は普通は見えませんが、コチョウランは大抵透明なポットに植えられているので、1株植えなら見ることができます。他の種類も近頃は透明ポット植えが増えてきました。二重鉢になっている場合はそっと中だけ持ち上げてみると分かります。
コチョウランの大型種の開花苗は殆ど根腐れがあると言っても過言ではありません。白や緑色の健康な根がない苗は枯れやすいです。
二重鉢で透明ポットに植えられていた、左:、右:ロビン・フッド
複茎種の多くは、開花とほぼ同時に、来年咲く株の新芽が出始めます。今咲いている株には普通はもう花が咲きません。デンドロビウムの場合は、開花と同時に翌年の脇芽が親株と同じ大きさになっていないと、来年の開花は余り期待できません。シンビジウムは、冬の苗は新芽が出ていないことが多く、初めてに近い人が育てても咲かせにくいことがあります。年が明けてから、新芽の出ている株を求めた方が確実です。ミニカトレアは年中開花株が出回っています。これも年が明けると開花株の根元から新芽の出た大きな株が出回るようになります。このような苗は来年の開花が期待できます。特に不定期咲の種類がお奨めです。
以上のような株が手に入ったら、もう半分は咲いたようなものです。別のところに書きますが、冬よりは春暖かくなってから、コチョウランやバンダは夏の前後に始めるのが無難です。