洋ランの植え込み材料

基本はバーク中粒だけ、ミズゴケをできるだけやめます、丈夫な種類は鹿沼土

目次
初めに

1 初めに

洋ランは、昔は主にカトレヤなどはミズゴケ、シンビジウムは軽石に植えられていましたが、最近はバーク植えが主流で、ミズゴケがそれに次ぐようになっています。しかし、バークにもミズゴケにも問題があり、それに対する対策は余り議論されていません。ここでは、それらの特質を吟味し、適材適所で用いる方法について述べます。
植え込み材料は、もっぱらランを育てるための使いやすさで選ばれています。しかし、材料自身の問題、資源としての有効利用、使用後の処理について、もっと考えるべきではないでしょうか。ミズゴケは生きた植物を園芸の犠牲にしています。高層湿原を構成し、泥炭の材料となっている貴重な植物です。バークは燃えるゴミとして処理できますが、土や石を材料とするものは処分がやっかいです。このHPでは、ミズゴケはバンダ類にしか使わず、また、固く詰めて大量に消費するのでなくふわふわにしています。また、バークやミズゴケの欠点を補う鹿沼土を用いる方法についても考えます。

2 植え込み材料の種類ごとの特質

まず、栽培に慣れて、腐ったり枯れたりを減らすためには、なるべく植え込み材料を単純にしておくのが良いと思います。
そこで、基本となるバークとミズゴケの特徴について述べます。
ミズゴケは、古くから洋ラン栽培に最も標準的に用いられてきた材料です。我が国のセッコクやフウランにも用いられていますが、現在は外国産の輸入が殆どです。


バークミズゴケ鹿沼土
最大保水量小(小鉢生育不良) 大(大鉢根腐れ)
低温期根が低温
春の芽出しの遅れ
乾く早さ遅い(絶対量は少ない) 早い(割合のみ、水の絶対量は多い)
高温で早く低温で遅い
水弾き大(小粒)大(柔らか植えで減少)
湿りの進行あり(底の過湿の原因)なしあり(底の過湿の原因)
植え込み材料取り除き手間(柔らか植えで減少)
植え込み作業手間(柔らか植えで減少)
カビ・ナメクジ中(湿りが続くとカビ)大、ショウジョウバエも
劣化中(湿りが続くと早い)早い
入手しやすさ専門店か通信販売園芸店(輸入品)容易
使用種類右以外の全種バンダ類シンビ・キンギアナム



2.1 ミズゴケ

ミズゴケは、水持ちがよく、鉢の中の空気の割合が高いので、特に通気性の良い素焼き鉢との相性が良いとされています。
しかし問題点がたくさんあります。
特に大きな鉢ではなかなか乾かず、根腐れにつながりやすい、根が弱った鉢ほど乾きが悪くなり悪循環になる。
 含水量が多いため、冬などに熱容量が大きく冷たいままになりやすく、これが根腐れを引き起こすと思われます
 オンシジウム、デンファレはミズゴケで植えられていることが多いですが、根腐れしやすいです
根張りがバーク植えより悪い
 硬く詰め込まないとぐらぐらするのも一つの理由と思われます
いったん乾くと縮んで固まり、水やりしても沁み込まなくなり、枯れの原因になる
詰め込む固さで、保水量や乾き方にばらつきがでて、一括した世話ができにくい
水やりが多いと腐りやすく、寿命が短いので頻繁に植え替える必要がある
植え替えのために古いミズゴケを取り除くのにとても手間がかかる
植えこむときも、根を1本1本包もうと思うと手間がかかる
ナメクジやショウジョウバエなどが住み着きやすく、屋外と家庭の出し入れに問題がある
低温期にカビが生えやすく、苗の病気につながると共に、室内でカビ臭がする
自然保護と以上の点から、このHPではミズゴケをなるべく使わないことにしました。

2.2 バーク

バークは、軽いために、従来の軽石に代わって、多くのランに用いられるようになりました。輸入品です。多くの種類が良く育つので広く用いられるようになりましたが、問題点がたくさんあります。
バークの問題点
保水量が少ないので、ミズゴケに比べて頻繁に水やりする必要がある。
粒の大きさが色々あり、性質がかなり異なる。特に小粒ではいったん乾くと水をはじくか隙間だけ水が通るようになってしまい、鉢の中に水が行かないため枯れることがある。粒が大きいと保水量が少ないことと、根の間にバークを入れるのに苦労する。
水やりを多くすると乾きにくくなり、腐りやすくなったり、カビが生えたりし、植え替え間隔が狭くなる
 特に低温期は鉢底近くほど乾きにくいため結果的に湿りが段々ひどくなります
ナメクジやアリが住み着きやすく、屋外と室内の出し入れに難がある

3 ミズゴケについて

3.1 ミズゴケの品質
ミズゴケには高級品と低品質のものがあるとよく言われます。貴重な苗を育てて品評会に出すような場合は、高級品を使う必要があるでしょうが、他の園芸のように花を咲かせてみたいという程度なら、高級品を使う必要はありません。
同様に、繊維が緑色を残していて、長いものほど良いとされ、白くなって古そうな物とか、袋の底にたまった崩れた物はもっての外と言われますが、このホームページでやっている、ふんわりと鉢に入れるだけの植え方なら、余り種類を選びません。繊維では入れにくい根元の隙間などには、崩れた物を振り掛けているほどです。
3.2 ミズゴケを詰める固さ
これも色々な意見がありますが、多かれ少なかれ鉢に力を入れて押し込むのが主流です。固く詰めることの見かけの利点は、柔らかい場合よりも水を多く蓄えられることと、植えた後にグラグラしないで安定することです。しかし、こうすると、乾いたときに固まって弾力も水を吸う力もなくなる、植え替えの時に根から取り除くのが大変になるなど問題も多いです。ミズゴケはもともとバークに比べれば数倍の水を含めるので、それ以上多くする必要はありません。グラグラは支柱を立てれば防げます。
  
ミズゴケ植えのミニバンダ(アスコフィネティア) 芯入りミズゴケペットボトル植えのミディーバンダ 芯入りミズゴケビニール網巻き寿司植えのバンダ

4 バークの種類−粒の大きさは1cm前後の中粒が世話しやすい

バークの問題の対策
上記のバークのいくつかの欠点は対策があるので、汎用品として最も使いやすいと思われます。
(1)保水量が少ないについて
 鉢をやや大きめにします。径7.5cm以下では乾きすぎるので、特に高温期に苗が弱りやすいです。本HP標準の植え方で根腐れの心配が減れば、径9cm以上を使うと良いでしょう。また、鉢が深くなるほど早く乾燥するのを防げるので、深い形の鉢が良いでしょう。
(2)粒の大きさを中粒に統一する
 小粒は、乾くと鉢の中へ水がしみこまなくなり、小鉢の小苗の枯れの原因になるので使わない方が安全です。また、小粒は水を滲みこませようと、大量の水やりをすると、浮き上がって鉢から流れ出してしまう点もやっかいです。
 一方、大鉢では、通常は中粒では含水量が多くなって根腐れしやすくなるため、大粒を使いますが、標準の角棒多芯植えなら、植え込み材料の大きな塊にならないため、過湿になりにくいので、大鉢でも中粒で大丈夫です。
 中粒は、根と根の間に隙間に大粒よりも入りやすく、乾いても小粒ほど厄介ではありません。特に乾いてしまいやすい夏には、根腐れの心配がないため、夕立に当てることができて、中まで再び湿るように回復します。の
 バークの性質はこのように粒の大きさに依ってかなり変わります。従って、種類や鉢の大きさに依らず同じ大きさの植え込み材料が使えると、水やりなどの世話が統一できて、楽になり、癖がつかみやすくなって失敗を減らすこともできます。
7.17対策追記

バークには、まず、材質による違いがあり、針葉樹と広葉樹のものがあります。また、発酵バークと言って肥料分をしみこませた小粒の物があります。また大きさは10mmを超す大きなものから、粉末を含むような発酵バークまであり、欧米では大粒(25-15mm)、中粒(5-15mm)、小粒に分けられているようです。針葉樹よりも広葉樹の方が腐りやすいそうです。小粒は一旦乾くと中に水が入らなくなってしまいます。ただし雨などで長時間大量の水分に当てれば回復します。また小粒は、湿りを回復させようと水を大量に注ぐと浮き上がったり鉢のヘリから流れ出したりして困ります。大きさが5-15mm位の中粒が適当で、大粒は含水量が少なく小鉢には向かず、根の間に入りにくいことも問題ですが、大型のコチョウランやカトレヤを大鉢に植えなければならない場合に適します。


径7.5,9,10.5cmの透明ポットと、黒いプラスチック鉢にバークとミズゴケを、また黒いビニールポットにバークを入れて水やりし数日たった処。大きい鉢ほど植え込み材料に湿りが見られる。

 
バーク中粒と鹿沼土、鉢径7.5cm    バーク大粒、鉢径12cm

バンダ(ミズゴケ)、シンビジウムとキンギアナム(鹿沼土)以外は全てバーク中粒植えを基本としています。
 
パフィオペディルム、バーク中粒、 大型カトレヤ、バーク大粒、鉢径135mm

5 鹿沼土

東洋蘭やその仲間の春蘭などには、鹿沼土が使われています。また、パフィオペディルムの一部にも使われています。そこで、余り一般的ではありませんが、洋ランに鹿沼土を使うことが考えられます。鹿沼土の特徴をいくつかあげると次のようになります。
保水量はミズゴケより少ないがバークよりは多い
乾く早さは、ミズゴケより早いがバークより遅い。
乾いても、有機質のミズゴケやバークと違って、水をやるとすぐに全体にしみこみ、毎回同じ保水量になるので、水やりが簡単になる。
バークやミズゴケのような、種類や産地による特性のばらつきがない。
無機質のため、腐ったりカビたりせず、頻繁に植え替える必要がない。
水を含むと柔らかくなって、長時間では粒が崩れてしまいますが、硬質鹿沼土を使えば、割に長期間安定で劣化による植え替えを頻繁にする必要はnありません。
春蘭と近縁のシンビジウムには適します。
また、地生ランの多いパフィオペディルムも良く育ちます。
オンシジウムやミルトニアも良く根が出ます。
寒い時期に植え替えると、既存の根が枯れやすいようです。
鉢が大きくなるほど、大きな粒を用いた方がよいと思います。
  
透明ポット・鹿沼土・キンギアナム プラスチック鉢に鹿沼土植えのシンビジウム   報歳蘭

ミズゴケ・バークの問題点と鹿沼土の薦め

ミズゴケの問題点

ミズゴケは、高温期には乾きが早く、低温期には乾きが遅くなり、その差が大きいです。また、含水量が多いため、冬には特に根が冷たくなります。この結果、根腐れしやすくなるようで、オンシジウム、エピデンドラム、デンファレなどの調子が悪くなりやすいです。

バークの問題点

バークの問題点は、第一に、保水量が少ないことです。このため、頻繁に水やりをしないと、水切れになりやすいです。次に、乾くと撥水性になってしまうことがあります。水やり後1週間では、次に水をやっても、水は素通りしてしまいます。表面がぬれたようでも中は乾いていて苗が水切れしやすくなります。特に粒が小さいと鉢の中の方はいくら水をやっても乾いたままです。
さらに、鉢に表面から乾き、」下の方は湿っていてアンバランスになりやすいです。このため、水切れしてきても、下の方が根腐れしそうで水がやれないということになります。
最後の問題は、特に下の方は段々乾きが悪くなりう、常に湿っているため早く腐ったりカビが生えたりします。そのため、1−2年で植え替えをしなくてはならず、生育がその度にロスします。最初の年は良いのですが、2年目になると底近くの乾きが悪くなり低温期に根腐れしやすくなります。

鹿沼土の薦め

こうしてみると、総合的に見て、鹿沼土が最も欠点が少なく、長期間特性が変わらず安心して植えておけるようです。ただし、急にこれまでの植え込み材料を全て取り除いて鹿沼土に植え替えるなおは、不安があるとか、そうでなくても、植え替えは根が元気な時になるべくそっと行わないと苗が弱ることを考えると、それまでの植え込み材料はそのままで、根鉢を崩さずに鉢増しをして、周囲に鹿沼土を入れ、高温期に新しい根が鹿沼土に伸びて、できれば根鉢を作ってから、中の古い材料を抜き取るのが安全でしょう。


まとめ

園芸店で売られている苗に用いられているのは大半がバークで、コチョウランやカトレヤの一部がミズゴケで、パフィオの一部が鹿沼土や軽石の混合です。
家庭では、1種類に揃えた方が世話が簡単で栽培のコツを早く掴めます。万能なのはバークなので、バークに揃えるのが安心ですが、手に入りにくいのが問題です。
ミズゴケは、慣れた人には生長が良いのですが、慣れないうちは根腐れしやすく、春の芽出しが遅れて花に影響し、害虫、カビなどの巣になりやすいのでお勧めできません。その上、ミズゴケは貴重な湿原の基礎になる植物を犠牲にするので、自然保護の立場からできれば使いたくないです。鹿沼土は、保水量も乾く早さも両者の中間なので、どの種類にも使えます。特にシンビやデンドロなど根の丈夫な種類には便利です。ただし肥料を多めにやる必要があります。、

3.4 ミズゴケ・バークの問題点と鹿沼土の薦め
2.4 まとめ追加、表に入手しやすさ追加、ミズゴケは低温期乾き遅く根が低温で根腐れしやすく春の芽出し遅れ
1.14 各種材料植込み例例写真
2011.1ミズゴケを自然保護の観点でとりやめ提案
2010.7.4掲載開始